佐藤 琢三
国語学 55(4) 73-84 2004年10月 査読有り
名詞「模様」とは,概ね「モノの表面に見られる図と地の対比における図の部分」と特徴づけることができよう。しかし,名詞「模様」の諸用法の中には「犯人はすでに逃走した模様だ」のように,文末に位置して話者が何らかの報告を述べるものが見受けられる。本稿はこのような文を「「模様」の報告用法」と呼ぶ。この「模様」の報告用法は発話状況の観点からは<公的報告の立場>,発話態度の観点からは<状況の見た目の描写>という特徴を有する。さらにこの<状況の見た目の描写>という特徴の帰結として,<認識の非表明>と<真偽の不確実性>という特徴を有することになる。また,文末が無標の確言形の文やヨウダ等の概言形の文がいずれも機能しない状況において,このタイプの文が体系の隙間を埋める形で働いていると考えられる。