澤田 匡人, 新川 貴紀, 市原 学, 外山 美樹
筑波大学発達臨床心理学研究 14 23-29 2002年12月
言葉を発しない状態を示す「緘黙」とは,一般に心因性のものを指し,大きく2つに分類できる。すなわち,状況に拘らず全く発話しない「全緘黙」と,特定の状況や人物に対してのみ発話しない「選択性緘黙」である。本稿では,選択性緘黙主訴として来談した女児に関する事例を検討する。選択性緘黙の好発年齢は4~6歳と考えられており(相馬,1991),本事例の女児の年齢もそれに該当している。発祥の原因としては,家庭内の力動関係(大井・鈴木・玉木・森・吉田・山本・味岡・川口,1979),コミュニケーションスキルの発達(服部・森本・白井・黒田,1998)などが考えられるため,発達遅滞や言語遅滞が緘黙の発症に先行していない場合は,その治療において緘黙児の家族関係とコミュニケーションスキルの両面を視野に入れる必要がある。そこで本稿では緘黙児の家族関係の変化を考慮しながら,対人緊張を和らげ自発的なコミュニケーションを促進するために遊戯両方を用いた治療過程を報告する。